【依存症との別れ】パチンコ・パチスロ脱却記②

 

パチンコ・パチスロ脱却記②

 依存症からの脱却を胸に身が凍り付く寒空の下、自宅を出てパチンコ屋の前まで行って引き返すという毎日を送って1週間以上経過した。

 すっかりこの生活にも慣れ始めているのが怖いところである。やはり人類にとってマンネリは敵だ。 このままでは私は”自宅とパチ屋往復依存症”になってしまう。しかし人は何かに依存するものであり、その対象によっては害がないはずだ。そんなことを考えながらこの往来の日々を思い出す。

 

 思い浮かぶのはパチ屋の前にいつも立ちはだかる眼鏡をかけた眼光の鋭い小太りの中年だ。彼はパチンコ屋の店長だろうか?いつもパチンコ屋の前で立ち止まり、苦渋の思いを顔ににじませ引き返す私のことをどう思っているのだろうか。

 軽く話しかけてみよう。

私「こんにちは。日差しが出ているのにも関わらず、今日もまた冷えますねー。」

 

店長「…」

 

私「…」

 

店長「あなたは何者なんですか!いつも店の前まで来て、帰っていく。気持ち悪い。」

 

 彼の鋭い目がよりいっそう鋭さを増して迫ってくる。

私「ちょ」

 

店長「パチンコ打つんですか?打たないんですか?どっちぃぃぃぃいい?教えてぇぇぇぇええ!」

 

私「それは哲学ですか?」

 

店長「いや、二者択一の質問ですよ。」

 

私「お答えできかねます。では失礼いたします。」

 

店長「待ってぇぇぇええええー、おしえてよぉぉおおおお!!」

 

 店長が必死の形相で追いかけてくる。彼は職務中ではないのだろうか、いやそんなことはどうでもよい。とにかくこの危機を回避しなければならない。私ははいている下駄を脱ぎ捨て全速力で走りぬけ店長を置き去りにし、自宅に駆け込んだ。

 やはりパチンコからの脱却は想像以上に難しい。たくさん走った疲労もあるのでもう寝よう。

 

次の日…

 

 外出の準備を整え、玄関のドアを開けた瞬間、私の目に入ってきたのはあのメガネ越しの鋭い眼光である。私は恐怖に震え、ドアをすぐさま閉める。もう一度ドアを開けると帰っていく店長の背中が見えた。なんなんだこいつは。パチンコの釘を調整する前に自分の頭のねじを調整してくれ。

 

その次の日…

 

 いつものように出かけようと下駄を履き、玄関のドアを開けるとそこにいるのは奴である。しかししばらくするとやはり帰っていく。私はこのとき初めて理解した。私がパチ屋の前まで行き、帰っていくように店長が私の自宅とパチ屋を往復しているのだ。 なんなんだこの逆転現象は。これがパチンコ依存症の後遺症なのか?

 

こうして私の店長同伴でのパチ屋往復の日々が幕を開けたのだった。

 

つづく